退職した。
やっと終わった。
そのはずだった。
そして予定通り、有志が送別会を開いてくれた。
場所はカラオケボックス。
個室。
気の置けない連中だけで。
ひっそりと。
社畜人生の一旦の幕引きに、
こんな場所が似合ってる気がしましたね。
乾杯した。
久しぶりに笑った。
本物の笑いを。
愛想笑いじゃない、作り物じゃない、
あの会社でする事のなかった、本物の笑いを。
そう…
そこにあいつが来るまでは。
ドアが開いた瞬間、わかった。
空気でわかった。
社畜の本能ってやつは、
危険を瞬時に嗅ぎ分けられるんでしょうね笑
毎日生死をかけて鍛えた感覚です。
ちょっとオーバーか笑
笑顔が止まった。
マイクを持っていた人が、歌の途中でフリーズした。
BGMだけが、奇しくも流れ続けていた。
そう。
暴力上司K主任だった。
どこで聞きつけた。
招待していない。
来る理由がない。
来ていい理由が、どこにもない。
それでも来た。
そういう人間なんでしょうね。
あいつは。
他人の領域に土足で踏み込むことを、息をするようにやる。
視線が合った。
元社畜は睨んだ。
不思議な事に恐怖は一切なかったです。
在職中あれほど恐怖で支配されていたのに、
退職した瞬間から、
もう上司ではない。
ただの「おじさん」になった。
査定?
関係ない。
報連相?
関係ない。
怒鳴り声?
もう関係ない。
全部、無効だ。
だから思い切り目に込めました笑
言葉にしなかったが、たぶん伝わったのかも笑
「お前はもう上司ではない。もう何もできない」
と。
次の瞬間
グラスが飛んできた
テーブルの上のグラスを
こちらに向かって
本当にこの人はグラスを投げるのが得意だなと
しみじみ思い返しました笑
大人なのに
社会人なのに
いい歳こいたおじさんなのに…
ちなみに当時K主任は41歳です。
グラスが割れると同時に
中のドリンクが激しく飛び散る。
間髪入れずに
誰かが悲鳴を上げた。
元社畜にとっては
またか、と思う出来事でも
普段、接点がない部門の人や
当時の新人の子たちは
当然免疫がありません。
漫画じゃなくて、現実で、
修羅場を作る人間がいるんだと。
2年間あの会社にいて、もう驚かないつもりだったんですけど笑
まだ更新できた。
ブラック企業の引き出しは、底なしだ。
男性社員が数人、飛び出した。
あいつの前に立ちはだかった。
あいつは暴れた。
怒鳴った。
何を言っているのか、もう聞き取れなかった。
ただ、防音の壁に、声だけが反響していた。
退職者の送別会で。
カラオケボックスで。
上司が暴れている。
冷静に考えると、すごい光景…笑
そんなことを、どこか遠いところで思っていた。
やがて、あいつは去っていった。
元、ラグビーマンの先輩社員に連れていかれました。
押し出されるようにして笑
こんな経験したくないあなたへ
プロに丸投げしよう!

ドアが閉まった。
廊下に怒鳴り声が遠ざかって。
そして
消えた。
続く静寂。
数秒の間も
ものすごく長く感じる出来事。
BGMも止まっていた。
誰かが気を利かせて切っていた。
さすが元社畜。 気が利く。
しれーっと止めたの私です笑
最初に口を開いたのは、一番年下の子だった。

・・・大丈夫ですか?
その一言で、部屋の空気がようやく動いた。
私たちは、もう一度乾杯した。
おそらくみんな意地だった。
あいつに、この会だけは、壊させたくなかったと……
笑い声が戻ってきた。
ぎこちなかったけど。
本物だった。
でも、みんなの顔に、さっきとは違うものが灯っていた。
怒りでもなく、
悲しみでもなく。
覚悟
だったと思う。
週明け
あの会にいた社員たちは、
連名で会社に訴えた。
「もう、この人とは一緒に働けません」
シンプルな言葉だった。
でも、これ以上の言葉はなかった。
個人が一人で言えば、握り潰される。
でも複数人が同じ事実を、同じ言葉で突きつけた。
しかも場所は退職者のプライベートな送別会だ。
言い訳のしようがない。
そして
暴力上司は、その日限りで辞めることなった。
皮肉なことに私の送別会が、あいつの送別会にもなった笑
……
笑えない。
でも笑うしかない。
ブラック企業あるあるの、極みから
あの夜来てくれたみんな。
止めに入ってくれた男性陣。
隣で泣いてた奴。
週明けに声を上げてくれた人。
あの漆黒の中にも、ちゃんと人間がいた。
それだけで、無駄じゃなかった。
たぶん。
きっと。
そういうことにしておきましょう。


あいつが辞めた後、会社の人から連絡が入ってきた。
退職が問題になって、離婚したらしい。
そうか、と思った。
でも同情はしません
さらに時間が経って、今度は別の噂が入ってきた。
自分で会社を立ち上げたらしい。
あいつが、社長。
うまくいってるかどうかは、知らない。
知りたくもなかった。
退職から3ヶ月後。
当時流行っていたフェイスブックに、通知が来た。
1件のメッセージ。
送信者の名前を見て、一瞬固まった。
暴力上司だった。
そもそも
友だち申請などは一切してない。
でも、気になり開いてしまった。

「俺と一緒にやらんか。年収1000万渡す。」
読んだ。
もう一度読んだ。
色々と思った。
グラスを投げた人間が、
よく打てるな笑
と。
「渡す」って何様だよ
年収1000万って、根拠どこだよ、と。
そもそもお前の会社、3ヶ月で人が集まらないのか、と。
でも、何も言わなかった。
言葉は、もったいない。
そっと、スルーした笑
返信はしなかった。
その後どうなったかは、知らない。
会社が続いているかも、知らない。
どこで何をしているかも、知らない。
そもそも知る必要がない。
ただひとつ言えるのは。
あいつが投げたグラスの破片は、
もうとっくに掃除されて、消えた。
でも、
あの時「辞める」という選択をした自分は、
ちゃんと残っている。
もしあの時、我慢して居続けていたら。
今も、あいつの下で働いていたかもしれない。
そう考えると、少しだけゾッとする。
環境は、自分で変えられる。
あの時の自分みたいに。
フェイスブックのメッセージはもう消えた。
でも
あの時の既読の記憶は今も鮮明に残っている。
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