「展示会」と呼んでいたが、実態はジャンケン大会だった。
しかも、確率は操作されていた。
会社がオークションで買ってきたのは、
工具ではなかった。
ジャンケンマンだった。
ゲームセンターに置いてある、
あの「ジャンケンポン!」と叫ぶ機械だ。
なぜそれが工具屋にあるのか、誰も説明しなかった。
入社して2〜3年の頃。
会社では毎年、「展示会」と呼ばれるイベントがあった。
その目玉が、ジャンケンマンだった。
じゃんけんに勝てば大幅割引。
さらに勝てば、バッテリーをプレゼント。
そのためだけに、オークションで機械を買ってきたらしい。
展示会の前日。
その機械が会社に届いた。
大型の中古品だった。
そして、荷物が届いた瞬間に言われた。

今日中に配線して、設定しておけ
改めて言うまでもないが
元社畜は、工具屋の店員だ。
ゲームセンターの店員ではない。
ボロボロの説明書をめくりながら、手探りで配線する。
その途中から、頭の中に声が聞こえ始めた。
「まだ終わらんのか」
「いつまでかかるんや」
最初は、幻聴だと思った。
少しして
結局本物になった笑
社長だった。
展示会は土日に行われる。
つまり、唯一の休みは消える。
代休はない。
手当もない。
それでも展示会は最優先だった。
毎年受けていた健康診断の日程と被っても、関係ない。
社長は言う。

「別日に病院探して受けてこいや」
「領収書もらってきたら精算する」
自分で探して、
自分で予約して、
自分で行け。
“受けられるようにする”ではなく、
“各自で何とかしろ”だった。
⸻
しかも。
その設定は——
最も勝てない確率にしてあった。
客は当たらない。
社員は休めない。
でも、イベントは“大成功”ということになっていた。
ある時、機嫌が良さそうなタイミングで聞いた。

「これ、いくらしたんですか?」

「たぶん5万」
「10万はしなかった」
はぐらかされた。
オークションで機械を買う金はあった。
でも、人に払う金はなかった。
展示会は、いつの間にかなくなった。
ジャンケンマンは2〜3回使われただけで、
今は倉庫でほこりをかぶっている。
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